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2025年05月05日
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SS(zill O'll その3)
2015年11月06日
自己満足その3です。(……)
「無限の魂? ロストールは何故そんなものを欲しがる?」
ディンガルの将・アンギルダンはそう言って顔をしかめた。
ふと、それまで黙していたゼネテスが口を開いた。「もしかしたら……」
「無限の可能性を秘めた者の生態研究、なんじゃないか?」
全員の視線が向けられる。ゼネテスは肩を竦め、苦笑した。
「アロイス・クラナッハは怪しい研究を色々してたって話だ。それで断絶されたって噂もあったくらいに」
「ちょっと待ってくれ」
アンギルダンが抗議の声をあげる。
「クラナッハ家は断絶などされていない。今を持ってロストールで権勢を振るっているが」
ゼネテスとジル、そして老将アンギルダンは顔を見合わせる。
――言うべきか。言わざるべきか。
決断を下したのは、老将だった。
「実は、わしらは……」
■You have my word.(3)■
ロストール王国がディンガル帝国への進軍を発表。
ディンガル皇帝・エリュマルクはこれを和平的に解決しようとしたが、ディンガルの将アンギルダン・ゼイエンがこれを拒否。
エリュマルクがアンギルダンの処刑を命じるも、間もなく逃亡される。
犠牲あっての和平解決を良しとしない志願兵100余名を引き連れ、アンギルダンは単独ロストールと対峙を決意。
開戦の地は、ディンガル最南端。
ルマリスより数日南に下った平野であった。
「にしても、よく信じたな。とっつぁ……いや、アンギルダン殿」
ゼネテスの言葉にアンギルダンは苦笑を返す。
「闇の神器と無限の魂――それをロストールは悪用しようとしているのだろう?」
闇の神器と無限の魂。ロストールはそれらふたつを研究・量産し、軍事に使おうと企てている。
もし成功したならば、世界の均衡が崩れてしまい、混乱を招いてしまう恐れがあった。
加えて闇の神器は破壊神を蘇らせるための道具である。へたに悪用すれば闇の力が暴発し、多大なる被害が出るだろう。
「俺は自分の目で見、耳で聞いたものを信じるタチでな」
そう言って、アンギルダンはジルを見やった。目が合い、少女は照れたように苦笑する。若いアンギルダンは凛々しくてどうも慣れない。
「無限の魂……。よもや実在するとは思わなかったぞ」
無限の可能性を感じさせる少女。
彼の直感ともいうべき何かが、彼女を信じるべきだと告げたのだ。
「ところで、お主――いや、アンギルダン殿。作戦はどうするのじゃ?」
全く持って呼びにくい。老将は苦笑する。まさか過去の自分と会話することになろうとは。
アンギルダンは老将の言葉に頷くと、幕舎に掲げられた地図を示した。
「決戦の地は、この先にある平原だ。そこは邪魔な森や砦の類は一切存在しない」
兵100。それにルマリスの義勇兵を合わせても120程度である。
対するロストール軍はおよそ1500。
圧倒的――いや、絶望的戦力差。
「まともに戦って勝てるわけはない。だが、俺は慕って付いてきてくれた部下を殺したくない」
そこで、だ。アンギルダンは言葉を続ける。
「我々ディンガル勢力は、そっくりそのままロストールに投降しよう」
顔を見合わせるジルとゼネテス。
驚きの声をあげたのはセレネーだった。
「どういうことです! お力をお貸し下さるのでは!」
老将は取り乱す彼女の肩をそっと叩いた。心配は無用だ。彼の目はそう告げている。
ディンガルの将と老将。ふたりのアンギルダンは顔を見合わせ、頷きあった。
「頼めますか」
「うむ」
老将はジルとゼネテスを見やって言った。
「わしら3人でかなりの敵を撃破せねばならん……大丈夫か?」
「アタシが居れば千人力だって言ったっしょ?」
かつて28騎で大軍を破ったネメアのように――否、それ以上に厳しい状況。
しかし、ジルは神さえも殺した女だ。圧倒的に劣勢なのはどちらというか。
「まさかロストール相手の戦争に参加することになるとはな……。けど、これも運命の悪戯か」
ゼネテスは肩を竦める。
老将は最後にひとつ頷くと、セレネーに村人総出で取り掛かってもらう作業を告げた。
「ありったけの布? それと……ええ。わかりました」
不思議そうにするも、セレネーは老将の言葉を村人たちに伝えるべく駆けていく。
その背を見送り、アンギルダンは副官に命令を出す。
「すべての装備を捨てよ。ここに置いていくのだ」
「は?」
呆然とする副官に大声で笑い、そしてもう一度繰り返す。
「我らはロストールに白旗を振って暖かく迎え入れてもらおうではないか。作戦は追って伝える、急げ!」
「了解しました!」
軍式の敬礼をすると、副官は幕舎を出ていった。
「アンギルダンが投降してきた?」
軍を指揮するアロイス・クラナッハは己の耳を疑い、報告に来た副官を驚きの表情でまじまじと見た。
“赤き巨星”の異名を持つ猛将が戦わずして投降とは。
「違いないか」
アンギルダン本人に間違いはないか、の問いである。
「間違いありません。私は一度、戦場で見たことがあります」
クラナッハの副官は勇猛果敢な武将であった。貴族にしては珍しく、戦場でいくつもの武功をたてている。
彼の話ではアンギルダン、兵共に何も装備していない状態での投降だということらしい。
「妙な……」
クラナッハは違和感を覚えるも、無防備な投降兵を無下には出来ず、副官に捕虜として扱うよう命じて言った。
「見張りは厳重にしろ。分かったな」
ロストール王フェロヒアのディンガル進行。
先手をとるはディンガル軍。
その第一手は、アンギルダンの投降であった。
※ ※ ※
ルマリス村では、村人総出でとある作業が行われていた。
だが、それももう間もなく全て完成する。
「アタシ初めてみたよーこんなの」
それは気球と呼ばれるもので、熱を利用して空を飛ぶ乗り物であるらしい。
「こんなモン知ってるたあ、さすが長生きはするもんだな」
「まあ、後は作戦が成功することを祈るばかりじゃ」
「生きてお帰り下さいまし、アンギルダンさま……」
「セ、セレネー殿……」
美女の涙にたじろぐ老将の様子に、ジルの不機嫌度数が一気にあがる。
「アンタ目薬差したっしょ!?」
「っち」
セレネーは悔しそうに舌打ちをし、ジルは「してやったり」とにやりと笑う。
ゼネテスと老将は女たちの様子に苦笑しながら肩を竦める。
ともあれ、緊張は和らいだ。
――行こう。いざ、決戦の地へ。
それが姿を現したとき、戦場は騒然となった。
空を飛ぶ巨大な球体。兵たちは初めて目にするものだった。
混乱する兵たちを鎮め、アロイス・クラナッハはただちに打ち落とすよう命令を出す。
「矢では届かん。魔法で打ち落とせ!」
「駄目です! スペルブロックがかかっています!」
一体何だというのだ。クラナッハは眉を顰める。
そう、彼はその圧倒的兵力差から油断していたのだ。
相手があの“赤き巨星”アンギルダンであったというのに。
気球がアンギルダンたち投降したディンガル勢の真上にきた。
アンギルダンは兵たちに号令をかける。
「迅速に行動しろ! 隊列は乱すなよ!」
やがて気球から何かが落とされた。
ディンガル軍がルマリスに置いてきた装備品。
ロストールが気づいた時には遅かった。
兵士たちは迅速に装備を整え、一斉に牙をむいたのだ。
これでロストールの後方にディンガル軍100、前方に義勇兵20という挟撃の構図が出来た。
前方に立ちはだかるのは、ネメアと同等の戦士たち。
彼らの攻撃範囲を抜けられる者はない。
「行くぞ! ディンガルと、ディンガルの民を護るのだ!」
ロストール軍は大混乱となった。
後には猛将アンギルダン率いる100の兵。
前には鬼神の如く強さを誇る3人と、ルマリア勢。
ジルのオールアタックで一気に何十人もの兵が倒される。それを目の当たりにした兵士たちは全身を恐怖で支配され、恐怖はやがて軍全土へと広がっていく。
そんなロストール軍に追い討ちをかけるかの如く、ひとりの男が姿を現した。
「力を貸そう。強き冒険者よ」
「……ネメア!?」
ああ、もういちいちカッコ良いなこの男! ジルは加勢に入った男を横目で見ながら苦笑する。
金の髪をなびかせ槍を振るう様は、まるで舞っているかのようだ。
(虚無の剣を追ってきた……て、とこかしらん。)
ともかく助力はありがたい。今は戦いに集中しよう。ジルは剣をぐっと構えた。
ネメアの出現は、ロストール軍の士気を更に大きく下げる結果となってしまった。
クラナッハの沈静も虚しく、混乱に陥る兵士たち。
敗走していくロストール軍を、アンギルダンは追撃しなかった。ネメアがそれを止めたからである。
「ネメア! 何故止める!!」
「エリュマルクが軍を動かす命令を下した。それに、闇の気配を感じる」
「闇の気配だと?」
※ ※ ※
(何という事だ! 何という事だ!)
アロイス・クラナッハは呪文のように心の中で繰り返し叫んでいた。
フェロヒアを言葉巧みに騙して兵を借り、闇の神器と無限の魂という実験素材を手に入れることができるはずだったのに。
このままでは引き下がれない。引き下がってなるものか。
クラナッハは馬首を返した。
「アロイス様、どうなされました?」
「私はこれから単身ルマリスへ向かう。お前は敗残兵をまとめ、ロストールへ戻るのだ」
「アロイス様!?」
勢い良く馬腹を蹴り上げて、単身村へと馬を駆る。
――焦燥の耳飾を、耳に揺らして。
(続)
ディンガルの将・アンギルダンはそう言って顔をしかめた。
ふと、それまで黙していたゼネテスが口を開いた。「もしかしたら……」
「無限の可能性を秘めた者の生態研究、なんじゃないか?」
全員の視線が向けられる。ゼネテスは肩を竦め、苦笑した。
「アロイス・クラナッハは怪しい研究を色々してたって話だ。それで断絶されたって噂もあったくらいに」
「ちょっと待ってくれ」
アンギルダンが抗議の声をあげる。
「クラナッハ家は断絶などされていない。今を持ってロストールで権勢を振るっているが」
ゼネテスとジル、そして老将アンギルダンは顔を見合わせる。
――言うべきか。言わざるべきか。
決断を下したのは、老将だった。
「実は、わしらは……」
■You have my word.(3)■
ロストール王国がディンガル帝国への進軍を発表。
ディンガル皇帝・エリュマルクはこれを和平的に解決しようとしたが、ディンガルの将アンギルダン・ゼイエンがこれを拒否。
エリュマルクがアンギルダンの処刑を命じるも、間もなく逃亡される。
犠牲あっての和平解決を良しとしない志願兵100余名を引き連れ、アンギルダンは単独ロストールと対峙を決意。
開戦の地は、ディンガル最南端。
ルマリスより数日南に下った平野であった。
「にしても、よく信じたな。とっつぁ……いや、アンギルダン殿」
ゼネテスの言葉にアンギルダンは苦笑を返す。
「闇の神器と無限の魂――それをロストールは悪用しようとしているのだろう?」
闇の神器と無限の魂。ロストールはそれらふたつを研究・量産し、軍事に使おうと企てている。
もし成功したならば、世界の均衡が崩れてしまい、混乱を招いてしまう恐れがあった。
加えて闇の神器は破壊神を蘇らせるための道具である。へたに悪用すれば闇の力が暴発し、多大なる被害が出るだろう。
「俺は自分の目で見、耳で聞いたものを信じるタチでな」
そう言って、アンギルダンはジルを見やった。目が合い、少女は照れたように苦笑する。若いアンギルダンは凛々しくてどうも慣れない。
「無限の魂……。よもや実在するとは思わなかったぞ」
無限の可能性を感じさせる少女。
彼の直感ともいうべき何かが、彼女を信じるべきだと告げたのだ。
「ところで、お主――いや、アンギルダン殿。作戦はどうするのじゃ?」
全く持って呼びにくい。老将は苦笑する。まさか過去の自分と会話することになろうとは。
アンギルダンは老将の言葉に頷くと、幕舎に掲げられた地図を示した。
「決戦の地は、この先にある平原だ。そこは邪魔な森や砦の類は一切存在しない」
兵100。それにルマリスの義勇兵を合わせても120程度である。
対するロストール軍はおよそ1500。
圧倒的――いや、絶望的戦力差。
「まともに戦って勝てるわけはない。だが、俺は慕って付いてきてくれた部下を殺したくない」
そこで、だ。アンギルダンは言葉を続ける。
「我々ディンガル勢力は、そっくりそのままロストールに投降しよう」
顔を見合わせるジルとゼネテス。
驚きの声をあげたのはセレネーだった。
「どういうことです! お力をお貸し下さるのでは!」
老将は取り乱す彼女の肩をそっと叩いた。心配は無用だ。彼の目はそう告げている。
ディンガルの将と老将。ふたりのアンギルダンは顔を見合わせ、頷きあった。
「頼めますか」
「うむ」
老将はジルとゼネテスを見やって言った。
「わしら3人でかなりの敵を撃破せねばならん……大丈夫か?」
「アタシが居れば千人力だって言ったっしょ?」
かつて28騎で大軍を破ったネメアのように――否、それ以上に厳しい状況。
しかし、ジルは神さえも殺した女だ。圧倒的に劣勢なのはどちらというか。
「まさかロストール相手の戦争に参加することになるとはな……。けど、これも運命の悪戯か」
ゼネテスは肩を竦める。
老将は最後にひとつ頷くと、セレネーに村人総出で取り掛かってもらう作業を告げた。
「ありったけの布? それと……ええ。わかりました」
不思議そうにするも、セレネーは老将の言葉を村人たちに伝えるべく駆けていく。
その背を見送り、アンギルダンは副官に命令を出す。
「すべての装備を捨てよ。ここに置いていくのだ」
「は?」
呆然とする副官に大声で笑い、そしてもう一度繰り返す。
「我らはロストールに白旗を振って暖かく迎え入れてもらおうではないか。作戦は追って伝える、急げ!」
「了解しました!」
軍式の敬礼をすると、副官は幕舎を出ていった。
「アンギルダンが投降してきた?」
軍を指揮するアロイス・クラナッハは己の耳を疑い、報告に来た副官を驚きの表情でまじまじと見た。
“赤き巨星”の異名を持つ猛将が戦わずして投降とは。
「違いないか」
アンギルダン本人に間違いはないか、の問いである。
「間違いありません。私は一度、戦場で見たことがあります」
クラナッハの副官は勇猛果敢な武将であった。貴族にしては珍しく、戦場でいくつもの武功をたてている。
彼の話ではアンギルダン、兵共に何も装備していない状態での投降だということらしい。
「妙な……」
クラナッハは違和感を覚えるも、無防備な投降兵を無下には出来ず、副官に捕虜として扱うよう命じて言った。
「見張りは厳重にしろ。分かったな」
ロストール王フェロヒアのディンガル進行。
先手をとるはディンガル軍。
その第一手は、アンギルダンの投降であった。
※ ※ ※
ルマリス村では、村人総出でとある作業が行われていた。
だが、それももう間もなく全て完成する。
「アタシ初めてみたよーこんなの」
それは気球と呼ばれるもので、熱を利用して空を飛ぶ乗り物であるらしい。
「こんなモン知ってるたあ、さすが長生きはするもんだな」
「まあ、後は作戦が成功することを祈るばかりじゃ」
「生きてお帰り下さいまし、アンギルダンさま……」
「セ、セレネー殿……」
美女の涙にたじろぐ老将の様子に、ジルの不機嫌度数が一気にあがる。
「アンタ目薬差したっしょ!?」
「っち」
セレネーは悔しそうに舌打ちをし、ジルは「してやったり」とにやりと笑う。
ゼネテスと老将は女たちの様子に苦笑しながら肩を竦める。
ともあれ、緊張は和らいだ。
――行こう。いざ、決戦の地へ。
それが姿を現したとき、戦場は騒然となった。
空を飛ぶ巨大な球体。兵たちは初めて目にするものだった。
混乱する兵たちを鎮め、アロイス・クラナッハはただちに打ち落とすよう命令を出す。
「矢では届かん。魔法で打ち落とせ!」
「駄目です! スペルブロックがかかっています!」
一体何だというのだ。クラナッハは眉を顰める。
そう、彼はその圧倒的兵力差から油断していたのだ。
相手があの“赤き巨星”アンギルダンであったというのに。
気球がアンギルダンたち投降したディンガル勢の真上にきた。
アンギルダンは兵たちに号令をかける。
「迅速に行動しろ! 隊列は乱すなよ!」
やがて気球から何かが落とされた。
ディンガル軍がルマリスに置いてきた装備品。
ロストールが気づいた時には遅かった。
兵士たちは迅速に装備を整え、一斉に牙をむいたのだ。
これでロストールの後方にディンガル軍100、前方に義勇兵20という挟撃の構図が出来た。
前方に立ちはだかるのは、ネメアと同等の戦士たち。
彼らの攻撃範囲を抜けられる者はない。
「行くぞ! ディンガルと、ディンガルの民を護るのだ!」
ロストール軍は大混乱となった。
後には猛将アンギルダン率いる100の兵。
前には鬼神の如く強さを誇る3人と、ルマリア勢。
ジルのオールアタックで一気に何十人もの兵が倒される。それを目の当たりにした兵士たちは全身を恐怖で支配され、恐怖はやがて軍全土へと広がっていく。
そんなロストール軍に追い討ちをかけるかの如く、ひとりの男が姿を現した。
「力を貸そう。強き冒険者よ」
「……ネメア!?」
ああ、もういちいちカッコ良いなこの男! ジルは加勢に入った男を横目で見ながら苦笑する。
金の髪をなびかせ槍を振るう様は、まるで舞っているかのようだ。
(虚無の剣を追ってきた……て、とこかしらん。)
ともかく助力はありがたい。今は戦いに集中しよう。ジルは剣をぐっと構えた。
ネメアの出現は、ロストール軍の士気を更に大きく下げる結果となってしまった。
クラナッハの沈静も虚しく、混乱に陥る兵士たち。
敗走していくロストール軍を、アンギルダンは追撃しなかった。ネメアがそれを止めたからである。
「ネメア! 何故止める!!」
「エリュマルクが軍を動かす命令を下した。それに、闇の気配を感じる」
「闇の気配だと?」
※ ※ ※
(何という事だ! 何という事だ!)
アロイス・クラナッハは呪文のように心の中で繰り返し叫んでいた。
フェロヒアを言葉巧みに騙して兵を借り、闇の神器と無限の魂という実験素材を手に入れることができるはずだったのに。
このままでは引き下がれない。引き下がってなるものか。
クラナッハは馬首を返した。
「アロイス様、どうなされました?」
「私はこれから単身ルマリスへ向かう。お前は敗残兵をまとめ、ロストールへ戻るのだ」
「アロイス様!?」
勢い良く馬腹を蹴り上げて、単身村へと馬を駆る。
――焦燥の耳飾を、耳に揺らして。
(続)
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