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2025年05月05日
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SS(zill O'll その4)

2015年11月06日
自己満足その4。
生まれたときから優遇され、何一つ不自由なく生きてきた。
望めばすべてが手に入る。
地位、名誉、豪華な服、食べ物、美しい女たち。
しかし、それらはやがて飽きてしまった。もっと違うものが欲しい。
望めば手に入るものではなく、もっと異質な違うもの。
(そう、例えば魔の力。)
人がどう望んでも手に入れることの出来ないモノ。
しかし古代から人が追い求め、望むモノ。
“不老不死” ――それが、まさにそれである。
幾度となく実験を繰り返してきた。
人の生き血を啜れば手に入る……これはデマ。
生首を並べ、特殊な儀式を行えば手に入る……これもデマ。
これも、あれも、どれも違う。
行き着く所までいきついて、古文書の中で“ソレ”を見つけた。
強大な魔の力を秘めたもの――“闇の神器”。
そしてそれを身に受けても平気でいられる被験体――“無限のソウル”。
両方が揃う地が、ルマリスだった。
確実に勝てる軍力差のはずだった。
なのに何故私は敗走している? 何故?
アンギルダンとかいうディンガルの将のせいか?
(いや、違う。)
それを補っても余る差だった。では、何故?
義勇軍に混じっていた鬼神の如き強さを誇る奴らが居た。
どうしてそんな奴らがルマリスに居るのだろうか。
運命の女神の導き? いや、違う。
(無限のソウルの導きか。)
無限のソウル。
無限のソウル。
そうだ、アレだ。
アレの血を飲めば、浴びれば、もしかしたら私にもその力がつくかもしれない。
(そうか?)
(いや、きっとそうだ。)
(そうに違いない。)
ならば、うざったい軍勢などもういらん。
私単身出向いて行って、無限のソウルの喉元をかっ切ってしまえば良いのだ。
何だ、簡単なことじゃないか。
(簡単だ。)
(簡単だ。)
「ははははははははははははははははは!!!」
狂気をおびたアロイス・クラナッハの笑い声が、戦場であった草原を駆け抜けた。


■You have my word.(4)■


ルマリスは戦勝モード一色だった。
けが人は出たものの、死者はゼロ。
あの圧倒的状況下においてこの結果は奇跡としか言いようがない。
「アンギルダン様の無事のご帰還、私、心から嬉しくて……」
「だから目薬はナシっつってんしょ!?」
「っち」
セレネーとジルの相変わらずのやりとりに、周りがどっと沸く。

「セレネーさん、大変だ!」

と、会合場所に男が転がり込んで来た。どうやらセレネーに用があるらしい。
「ロストールの総大将っつー奴が乗り込んできやがったんだ! 靴屋のロッドが斬られちまった!」
戦勝ムードが一転し、周囲が恐怖に彩られて行く。
そんな雰囲気をぶちやぶったのはジルのこの一言だった。
「んじゃあ、私が行って殴ってくるわ」
それに呼応するよう老将が挙手をする。
「負傷者の手当も急がねばならん。誰か回復魔法を心得ている者は居るか?」
「それなら私が!」
セレネーが言う。
老将は頷き、彼女を伴ってジルの後を駆け出した。
「闇の気配が濃い……。私も彼らと共に行く。ゼイエンよ、ここは任せた」
アンギルダンにそう告げて、ネメアも後を追っていく。
「若いとっつあん、俺もちょっくら行ってくる!」
どたどたと末尾を走って行くゼネテスの背を眺め、アンギルダンは小さくそっと呟いた。
「俺も行きたかったんだが……」

ガサガサと木々がざわめく。
「どこだ、どこだ……」
血の滴る刃を拭きもせず、クラナッハはふらふらと彷徨い歩く。
ガサリと大きな葉の揺れる音。
瞬間、深紅の髪がクラナッハの前に飛び出した。
「居たっ! コイツっしょ!」
言うが早いか、クラナッハにジルの飛び蹴りが炸裂する。
彼は何が起きたかもわからなかっただろう。考える間もなくその場に仰向けに倒れてしまった。
追いついたゼネテスが思わずツッコむ。「人違いだったらどうするんだよ……」
「まあまあ!」からりと笑って、「たぶん正解だったんだから良いじゃん?」
その様子に、さすがのネメアも絶句した。

そこから少し離れたところに、クラナッハに斬られたであろう負傷者の姿があった。
セレネーの回復魔法で一命をとりとめたが、しばらくは絶対安静だ。
「いやはや、」老将が感嘆の息をつく。
「セレネー殿の魔力は大したもんじゃ。そこらの魔法自慢の冒険者なぞよりよっぽど凄い」
「私には“大いなるソウル”や“無限のソウル”はありません。でも、きっと特殊な家系なのでしょうね」
奢る事も誇ることもなくセレネーは苦笑する。
「でも私は回復魔法以外は知らないんです。人を傷つけるのは、やはり苦手で」
「優しいんじゃな」
「違います」
少し悲しそうに、彼女は言った。
「ただの卑怯者です」

その日の夜、クラナッハは押し込められた納屋の中で意識を取り戻した。
「くっ、縄を解け!」
「あっははは!」爆笑したのはジルだった。
「超ウケる! 危険人物野に放つワケないっつの」
そう言ってクラナッハの目を覗き込む。
「毒素が抜けるまでココで反省することねー」
ひらひらと手を振って、ジルは納屋の戸を閉める。
敗戦でヤケになってしまった末の凶行だろう。そう軽く考えていた。

ジル、ゼネテス、老将、ネメア、アンギルダン、セレネー、オールの7人はセレネーの家で歓談しながら遅めの夕食をとっていた。
食後に出された一杯の紅茶を口にし、ネメアが言う。
「うまいな……」
「でしょう?」
セレネーは微笑む。
「この村の周辺でしかとれない葉でいれたものなんです」
大いなるソウルや無限の魂、虚無の剣、ルマリス王朝の隠し財宝――そんなものなんかより、この茶葉の方がよほどの宝だと彼女は笑う。
「あっ、そうだわ」
気がついたようにセレネーは席を立つ。
「あの人も喉が渇いているのではないかしら」
“あの人”というのがクラナッハを指しているのであろうことは直ぐにわかった。
止めたのは、アンギルダンだ。
「やめておけ。ああいった輩への情は、けかけてやるだけ損だ」
「まあ! 黒いお髭のアンギルダン様は冷たい方ですのね。やっぱり白いお髭のアンギルダン様の方が素敵だわ!」
「むっ……」
冗談じみたセレネーの回答に、アンギルダンが口を噤んだ。
その様子に老将は声をあげて笑って、
「クラナッハ卿は縄でふんじばってあるんじゃ。心配なかろう」
「しかし……」
「心配ならわしもセレネー殿に付いて行こう。それで良いじゃろ?」
「あっ、おじいちゃんが行くならアタシも行く!」
「ジルが行くなら俺も!」
次々に挙手するジルとゼネテス。
結局、それなら皆で行こうとぞろぞろと納屋に向かうこととなってしまった。またも、アンギルダンはネメアに留守を押し付けられたが。

クラナッハは納屋に転がったままで微動だにしておらず、一見眠っているようだった。
「クラナッハ様。あなたは村を滅ぼそうとし、村人を傷つけた悪人です。けれど、そんな貴方を放っておくのはライラネート様が悲しむでしょう。お茶をお持ちしました。よろしければお飲み下さい」
セレネーが一歩近づく。
と、その時だった。
クラナッハの閉じていた目が開き、ギョロリと彼女を睨んだ。いや、睨んだかどうかは定かではない。彼の視点は定まらず、宙を彷徨ったままである。
「!」
セレネーは咄嗟に身を引くが、金縛りにあったように全身が動かない。
「セレネー殿!」
老将が叫ぶと同時、クラナッハの耳で揺れていた焦燥の耳飾りが目映い光を解き放つ。
禍々しい闇の光は、あっという間に空間を覆ってしまった。
(この感覚は……。)
知っている。
闇の神器の力に魅入り、全てを取り込まれてしまった者の変貌だ。
「いかん!」
老将が叫ぶ。
しかし、ジルの行動はそれよりも早かった。
「セレネー!」
素早く地を蹴り、闇に向かって突進する。
手応えを感じて手を伸ばし、セレネーを闇から救い出す。
(っよし!)
内心ガッツポーズをする。が、
「やば……」
逆にこちらが闇に取り込まれてしまいそうになる。
武器を持っているならともかく、今は素手。闇を振り払うのは難しい。
「ジル!」
腕を捕まれ、ぐいと闇の外へと引き寄せられる。
「ネメア!」
ああもう何て頼りになる男!
闇の中から脱出すると、心の中で絶賛するジル。
禍々しい気にあてられたも、咳払いひとつでそれを払拭し、ネメアと共に渦巻く闇と対峙する。
やがて姿を現したのは、巨大な怪物。
アロイス・クラナッハの欲望の姿――欲望に取り込まれた“人間だったもの”である。
「ああなっちゃ、人間終わりってカンジよねー」
「違いない」
ネメアと頷き、武器を手にする。
「お爺ちゃんとゼネテスは、セレネーを連れて外に出て」
闇に体制のない人間は息を吸っただけで取り込まれ、命を失う可能性も化け物に変じてしまう可能性がある。
今、アロイスとまともに戦えるのはジルとネメアの二人だけ。
承知した、と短く告げて老将はゼネテスと共に外へ出ていく。
「……ジル」
「オッケ!」
ネメアの意を瞬時に介し、ジルは地を蹴る。
ネメアもまたジルに続いて槍を振るった。通常であれば、ふたりの刃を受けて倒れないものは存在しない。……はずだった。
「!」
ジルの刃がクラナッハの体をすり抜ける。予想外のことに咄嗟の反応が遅れてしまって、ジルは地面に倒れ込む。
「……虚無の剣、が」
剣が無い。
いや、正確には手元にあるが、刃の実態が感じられない。
舌打ちしたい衝動を何とかこらえて、眉を潜める。
借りていた竜破はゼネテスに渡してしまって、セレネーに隠す必要がなくなったから、愛用の剣を持っていた。近くに時代が違う闇の神器があるのだから、少しは警戒するべきだった!
「奴が逃げるぞ!」
ネメアの声にハッとする。が、遅かった。
ネメアの攻撃によってダメージを受けたクラナッハが壁を突き破って外に出ていく。
勝てないと思って逃走を図ったか、それとも……。
「あいつって、確か……」
捕らえた時、奴は言ってなかったか?

『無限の魂の血を浴びれば、その力を手にすることができように』

(しまった!)
ジルは慌てて後を駆け出す。今のクラナッハは己の欲望に忠実だ。と、すると。
「あの赤ん坊が危ない!」
何だろう。背筋が寒い。
もしこれが過去にあった出来事だとして、このままあのジルという赤ん坊が殺されてしまったら?
(……らしくない、か。)
悲観的な思考を追いやって、前を見据える。
大丈夫。
今の私がここに居るのに理由があるなら、きっと平気だ。
(……でも。)
その時。ジルの考えを遮るように、派手な爆発音が響き渡った。
爆煙をくぐり、セレネーの家に足を踏み入れる。
赤ん坊を身を挺して庇ったのか、傷つき、倒れる人影が微かに見えた。
「アンギルダン!」
「すまん、守りきれなかった……」
アンギルダンは呻くように謝罪する。
見るとクラナッハの片手には、揺りかごごと吊り上げられた赤ん坊がいる。
「あっは、チョーヤバってカンジ?」
赤ん坊を傷つけずにクラナッハを倒すのは難しい。
ネメアを見ると、彼も動きあぐねているようで、じっとクラナッハを見据えるままだ。
(どうする……。)
やむをえない、か……。
玉砕覚悟と、ジルは床に転がっていたアンギルダンの斧を手に取った。


※ ※ ※


倉庫の一室で、セレネーは丁重に保管してあった虚無の剣を手に取った。
老将とゼネテスを振り返る。
「何をする気じゃ、セレネー殿」
危険だと言う老将に微笑み、彼女は答える。
「私は卑怯者です。人を傷つけることを恐れ、剣をとることを恐れ、ただひたすらに回復の術しか学ぼうとしませんでした。……でも」
村のために危険を省みず戦ってくれたジルたちを見て、自分を恥じた。
「傷つけないから優しい、というのは間違いだという事に……私は、漸く気がついたのです」
守るために剣をとる。
何かのために戦う。
誰かのために傷つき、傷つける。
その強さこそが、本当の優しさなのだと。
迷いなき瞳で、彼女は告げる。
「命に代えても、弟と妹を守ります」


※ ※ ※


聴こえたのは、誰の声だったのだろうか。
――――ワタシヲ、ワスレナイデ――――。

誰の願いだったのだろうか。
『もっと生きたかったぜ。……お前と、一緒に』

誰の想いだったのだろうか。
『いつか……行こうぜ。この海の向こうへ』


※ ※ ※


運命の輪は、逆回転に廻り出す。
――そして、決着の時がきた。



(続)





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